いつか澪が先生として桜高に帰ってきたとき、彼女は「学園祭でのあの衣装」の写真を黒歴史として屠るのだろうか

けいおん!!』第2話、面白すぎるだろ……!
てゆうかなんかもう、『けいおん!!』に関しては何やられても「面白い」と言ってしまいそうな気がします。どうでもいいかのような日常の積み重ねを見て「面白い」と感じられる。ならばもう、何やられても「面白い」と感じてしまいそうです。

しかし考えれば考えるほど「さわちゃん先生」は面白いです。さわちゃんはかつての軽音部員だったんですけど、彼女にとって過去の軽音部は黒歴史として語られてるんですよね。さわちゃんが元軽音部員と明らかになったときに、「今はおしとやかキャラで通してるのに、あの(はっちゃけてた頃の)封印された過去が発掘されるなんてー!抹消しないと!」という行動をしていたように。

今の、仲良く、どうでもいいような日常すら楽しく描かれている軽音部の顧問が、軽音部時代が黒歴史としてしか語られていないさわちゃん先生*1

でもそれは、黒歴史のところが(ところだけが)語られているだけで、さわちゃんにとって軽音部時代が本当に黒歴史だったのかは分からないんですよね。あの「ワイルド」系だった頃の自分は、写真を屠ろうとしたように、確かにある程度以上は黒歴史なのかもしれない。けれど他については、何も語られていません。軽音部が嫌だった、軽音部は黒歴史だ、そんなことは語られていない。むしろ、直接的な言及はないですが、自身の軽音部時代を忌避してるようには見えないですよね。元軽音部員だったことがバレるまでは必死に隠そうとしていましたが、一度バレてしまってからは開き直ったかのように隠そうとはしませんし、むしろ、唯の特訓に付き合ったり文化祭でヘルプに入ったりと、「自分が軽音部だった頃のスキルを生かして」まで協力的です。それどころか、この第2話で久しぶりに「黒歴史写真」が出てきましたけど、そのときの反応(梓は初見なのに!)を見る限りでは、世間一般にバレるのは嫌かもしれないけど、身内=軽音部の人たちなら幾らバレてもいいし、写真をこのように扱われても怒ることはない、そのくらいに彼女の中で消化できてるのかもしれません。

それでもやっぱり語られることはない。写真(とそれに伴うワイルド系の自分)が黒歴史だからといって、軽音部時代全てが黒歴史だったとは限らない。けれど、語られることはありません。さわちゃんにも、軽音部の仲間とくだらないことでワイワイやったり、ファーストフード行ってだべったり、ホームセンター行って買い物にはしゃいだり、そんなことがあったかもしれない。合宿をおこなったり、頑張って楽曲を作ったり、ワイルドな自分になるために軽音部の仲間と試行錯誤を繰り返したのかもしれない。それは今、唯たちがやってることと、内容は違うけれど本質は同じ。輝かしい部活動と学園生活の記憶。しかし語られることはない。そもそも、彼女はどのくらいその頃のことを覚えているだろうか。

たとえば6〜7年後(つまり今のさわちゃんと同じ年齢)の唯たちが、今日*2のことをどんだけ覚えているだろう? ギター売ったら50万になって思わずちょろまかそうとしちゃった、なんて大きな出来事は、記憶に曖昧な部分とか生じるかもしれないけど、それなりに覚えている可能性は高いでしょう。けれど、たとえば、今日ホームセンターに行ったことを覚えているだろうか? はじめて行って大興奮だったムギなら覚えているかもしれませんが、それ以外はどうだろう。電動ねじ回しを銃に見立てて二人は死にましたーとか、ヘルメットのライトを澪に当てて遊んだこととか、大人になった唯は、律は、覚えているだろうか? きっと覚えてないだろう。むしろ、こんなカバンを前に背負うという変な格好して電動ねじ回し銃とか、覚えていたら黒歴史ものなんじゃないだろうか。

さわちゃんが写真を破棄したがったように、6〜7年後の唯もこれを破棄したがってしまうかもしれない。
けど、それが輝かしい。『けいおん!!』の大部分はそういうものの積み重ねで出来ているけれど、それが『けいおん!!』の中身として、輝かしく存在している。語られなかったさわちゃんの軽音部時代と、本人すら覚えていなそうなその頃のささやかな事々、未来には黒歴史として始末されたくなるようなシロモノ、『けいおん!』はそれらと同じものでもあった。

いつか澪が、あるいは梓が、もしくは律が、――唯と紬はもともと恥ずかしがってなかったから大丈夫かもだけど――、いつか彼女が桜高に教師となって帰ってくることがあったとして。学園祭でさわちゃん先生作の恥ずかしい衣装を着ていた自分の写真が、そのときまだ軽音部室に残っていたとして。彼女はその写真を黒歴史として屠ろうとするだろうか。屠ろうとするかもしれません。けれど、写真を隠滅しようとしたからって、写真が黒歴史だったからって、軽音部で過ごした時間も黒歴史とは限らない。―――しかし、それは今のさわちゃんのように、語られることなく、彼女自身詳しい出来事を記憶しているかどうかも定かではなく、ただ否定せず、さりとて語られず、残るものになるのではないか。
僕らが『けいおん!!』で見てるのは、たとえばそんな時間なのかもしれない。

*1:アニメ第2期第2話までにおいてでして、原作は(3巻以降を)読んでないのでどうなのか分かりませんです。

*2:正確にはこの3日。