『俺たちに翼はない』 この感想にネタバレはそんなにない

俺たちに翼はない -Limited Edition-俺たちに翼はない -Limited Edition-
(2009/01/30)
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一言で申し上げましょう。
最高傑作だから全員プレイして。
ええもうわたしの中では心のベストテン第一位か第二位かと、超絶至極の勢いで輝いております。もうマジ素晴らしいですから。完璧ですから。全タスクぶっちしてプレイしておりました。いいから。騙されたと思ってやってみて。最初の数時間はちょっとつまらないかもしれません。でもそれだけ我慢して、やってみてごらんなさいよ。全体的に(「テーマ」という言葉を使いたくなるほど明け透けに)直球ストレートすぎるかもしれません。でもたまには、作品と真正面からぶつかる気概で、やってみておくれなさいよ。青臭さも気恥ずかしさも忘却してこの子とがっぷり四つ組んじゃってみてくださいよ。損はない。確実に得しかない。

もうちょっと細かいこと言いますと、このテキストの洒脱っぷりと技巧っぷり&ヴォイスの心地よさっぷりだけで充分に元は取れます。もうすげーハイレベル、信じられない、眼福&耳福、フツーにカルチャーショックでパラダイムシフトで天地創造でしたねー。
あと全キャラ、そう、「全キャラ」ですよ全キャラ! 全キャラ超可愛くて格好良くて最高で、特に主人公&攻略対象キャラなんかはそれに輪をかけて超可愛くて最高でかつ結構嫌いな面とかムカつく面とかあって、もうシャレにならないほど大好きです。テキストレベルでも、お話の構造レベルでも、演出(場面と場面の間をシャッターするタイトルロゴとか)レベルでも、とにかく自己言及性が高くて、それがプレイする僕にも波状効果です。つまりこいつら超鏡像。あー、明らかに狙ってるよな、これ。ふふん、超最高ですよ。


ということで、以下、そんなにないネタバレを裏側に孕ませて――ぼかしにぼかし、まやかしにまやかしつつ、感想などを。直裁を回避しているつもりですけど、できればプレイ後に見てくれた方がいいかもねー。




A!B!YSS! A!B!YSS! ラジオはチャンネル956京――と失礼、こんなの俺たちにはもう必要なかったですね。ということでこんばんは。いやコンドルわ。いえやっぱ今晩はで。「俺つば」をクリアしました。
さて、「ネタバレはそんなにない」と標榜しちゃってるので、あまりバラさないで書きますよー。まだ未プレイの人が読んでも、ニュアンスが分かるかどうかくらい、既にクリア済みの人が読んでも、やっぱりニュアンスが分かるかどうかぐらい、わたしが自分で読み返しても、ニュアンスしか分からない! そう、ニュアンス! ネタバレに対抗する魔法の言葉、ニュアンス! 行間読まなきゃ大丈夫。やったね!(←小鳩風)
それはさておき、「俺つば」ですが、一言で申し上げるなら「俺たちに翼はない」、そのタイトル通りであらせられました。
俺たちに翼はない
翼がない人間はどう生きていくのか? 翼ないのに飛ぼうとするの? 飛ぶふりするの?――そいつは適わにーでしょう。それはもう、空港'Sの皆様、攻略対象キャラの皆様が如実に示しておられます。
そうそう、攻略対象の分別、あれは素晴らしいですねー。ヒノエリも紀奈子さんもコーダインも、「彼」は必要条件じゃないし、「彼」にとっても彼女たちは必要条件じゃないんですよ。彼女たちはこの現実に、地に足付けて”耐えられる”。やー、紀奈子さんシナリオよこせ、よこさないなら俺は脳内で勝手に作る! と叫んだわたしはお馬鹿さんでしたね。いやそれでも脳内で勝手に作るけどね! 閑話休題。とまれ、彼女は「彼」がいなくても、(彼やあの娘たちのように)”翼を捏造”したり、”翼を耐えられないほど求め”たり、そういうことはないわけです。それは「彼」にとっても近いものがあって――つまり、彼女は「彼」の翼になりえない。
逆に、「俺つば」唯一の、最大の欠点はそこ。遊びがない、無駄がない。完璧すぎるつうか隙がない、つまり一色に染め抜かれてるところですかねー。ここまでお膳立てされると、プレイヤーは「まな板の鯉」すぎるじゃないですか。しかもラストのアレ、プレイヤーの視座の鮮明化、「この放送は一部の地域を除いて延長してお送りします」!。作り手もそのこと理解しすぎっすよ。「どうだこのやろう」という天声が聞こえてまいりますよ。「お前、一部の地域?」っていう啓示が響いてまりますよ。
でもわたしとしては、このレベルでやってくれれば、それはもう覚悟生まれますよー。青臭さも気恥ずかしさも忘却してこの子とがっぷり四つ組んでみたくなりますよ。真っ正面からこんな気恥ずかしいこと言ってくるんだから、こっちも真っ正面から受け止めてやろうってんだ。上等だ、めちゃくちゃ愛してやんぞコノヤロウ。――未プレイの方向けに書くと。少しの無駄も変化もない、超直球ストレートなので、そこを欠点に思ってしまうかもしれません。でも、こんだけ気合入ったストレートなので、できれば、ガッチリとミット構えて受け止めてあげてほしいです。


翼のない人間はどう生きるか? となると、それはもう答えはひとつしかないですね。「地に足付けて」生きる、と。それは逃げ場はないし、全部楽しいわけではないし、まあ世界は金色に輝いていねーマジありえねーつうか死んだ魚のアイズだぜーってくらいかったるいものだったりして、それに耐えられなかった「彼」や「あの娘」たちが、勝手に翼を”捏造”しちゃったのはご記憶に新しいことでしょう。あるいは処世術に処自されちゃいそうなくらいナチュラル適応な女の子とかね。あるいはちっちゃい偶然という藁にすがっちゃう女の子とかね。たったひとりで世界にガチで向き合うのはとても辛いことで、そこから逃れる術として、在りもしない翼を求めてしまう、作ってしまう。

翼がない人間が地に足付けて生きてくのは結構キツくて、つまんなかったりして、だもんで、地から逃避とか抑制とか抑圧とか受けたりしちゃったりしながら生きていくわけなんですけど――それが行き過ぎると、耐えられないと、”翼を捏造しちゃう”ことになるんですけど。でも、実は俺たちにも翼はあるんじゃねえの?っていうのがこのお話。
「知ってるかい。世界なんて、おまえらみんなたちの心の中にあるチャンネルをひねれば、いくらでも変わってしまうものなんだぜ」。「世界は金色に包まれているのだ――」「それでも羽ばたくことくらいはできるんじゃないか」。

つまり、そういうこと。あなたがわたしの××である、だから世界は輝いている――。
俺たちの翼はそこに在る、俺たちにも実は翼はある。それでもやはり飛べはしないし、逃げることは叶わない。でも、それがあれば、例えばあのシナリオやそのシナリオが十全に語ったように、世界は輝いて見える。例えばこのシナリオやそっちのシナリオが十全に語ったように、前を向いて歩いていける。その翼は、飛ぶことも逃げることも叶わないけれど。それがあれば、飛ばずに逃げずに、地に足付けて生きていけるのだ――。